第1回 大賞作品【わたし遺産ニュース01】

探し続けていた
手作り教科書が
ついに見つかりました!

第1回大賞作品『愛が詰まった手作り教科書』を書いてくださった北澤さんから、題材となったご両親さま手作りの教科書がついに見つかったと、嬉しいニュースが届きました。受賞時にインタビューさせていただいた時に、我々スタッフもぜひ拝見したかったのですが、当時は発見することができず、初めてお目にかかります。北澤さんに、教科書が見つかった経緯からご両親さまへの想いなど、改めて伺いました。

教科書が見つかった経緯を教えてください。

 両親の死後、実家を一大決心のもと取り壊すことにしました。思い出の品々を整理しながら例の教科書を探すこと半年、ついに巡り合ったのは取り壊しの数週間前です。父が書斎がわりに使っていた掘りごたつの上の小さな本棚に、それはありました。
 見つからない半年間、私と違って両親にとっては置いておく価値のないものだったのかな?と落ち込んだ日もありました。なぜここまで見つけるのに手間取ったのかと言いますと、シミだらけの白表紙を見かねた父が、新たに黄色いカバーで綴じていたため、同色の古文書ファイルの一冊だと見過ごしていたのです。カバーをかけ、座右に置くほど両親にとってもこの教科書が大切な思い出と分かり、とても幸せな気分に包まれました。見つけることができてビックリもしましたが、とにかく嬉しかったです。

教科書の中身について、今ご覧になられていかがですか?

 作った時期が冬だったからでしょうか、私の記憶にはスワンしか残っていなかったのですが、表紙には降る雪のなか、暖かい灯をともすランタンの絵が貼ってあります。表紙をめくると、注意とあり「もとの国語の本のとおり、十一行で一行三十字詰です。」などの説明書きがあります。最後の注意は、「教科書は、学習に一ばんたいせつな本ですから、なくしないよう、気をつけなさい。」で結ばれています。この注意は私の記憶には全くなかったのですが、親心を感じ、何とも微笑ましい気分になりました。

 中身を見ると、父の丁寧な文章と共に、母が担当した挿絵も力強く描かれています。ものすごく細かい文字も工夫して丁寧に写してあり、絵も元の教科書通りなんです。しかし、両親は旧仮名遣い・旧字体の世代です。戦後生まれの私と違い、現代仮名遣い・新字体の教科書を写すのは、両親にとって、子供心に感じた以上に大変なことだっただろうと思いますし、とても愛情を感じます。そして、裏表紙には作った時にはなかった言葉が書き足されているのに気づきました。「本書は和子が学芸会の稽古中に、国語の教科書をなくしたので、急遽写本を作ったものである。清掃中に発見したので、記念のため保管する。文、父 佳朗 え 母 敏子」。やはり両親にとっても、この教科書はのこしておきたいものだったんだなと、温かい気持ちになりました。

教科書が見つかって、改めて両親に伝えたいこと。

教科書がつないでくれた、
家族という名の命のリレー。

 私の記憶の中では、この教科書は両親が書いたもので一番古いものなんです。今回、手作り教科書を探す過程で、両親の想いに触れる機会が数えきれないほどありました。不思議なもので、私にとってこの教科書の話は自分の子ども達にも話したことはなかったのですが、作品を書くことで伝えることができましたし、現物を見てもらうこともできました。息子達は、すごいね!と、びっくりしていましたよ(笑)これは私の中で、人生で残しておきたかったエピソードなので、本当に嬉しく思っています。
 私の両親はいつも、二人の孫(私の息子)のことを気にかけていました。幸い二人ともすばらしい伴侶と出会い、それぞれ子どもを授かったことを心から喜び、その成長を楽しみにしていたんです。まさに「命のリレー」ですね。この教科書の話も、息子達に語り継いでもらえれば、嬉しいです。
 父と母は、私の若い頃には、「いかに生きるか」を、そして最期の介護の日々を通して、「いかに死ぬか」を教えてくれました。二人には「私がしてもらったように、みんなで家族を大切にしながら生きてゆくので、安心して見守ってくださいね。」と伝えたいです。

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