「夫婦二人だけになり、家が広すぎる」「一戸建ての管理の負担が重い」など、ライフスタイルの変化にともない「我が家」の在り方を検討する高齢世代が増えています。思い切って「管理がラクで利便性の良いところ」に住み替えることにより、毎日をイキイキと過ごせることもあります。

老後の住み替えについて、シニア世代の住まい選びについて詳しい、山中由美氏に解説をいただきました。

山中氏は国内外の高齢者施設を約700ヵ所訪問調査し、シニア世代の暮らし・資金計画、介護に関するテキスト発行やセミナーを多数実施されています。

(株式会社Pro・vision所属 1級ファイナンシャル・プランニング技能士、福祉住環境コーディネーター 他)

山中 由美(やまなか ゆみ)氏 山中 由美(やまなか ゆみ)氏

日本人の高い持ち家率

日本では、65歳以上の高齢者がいる世帯の持ち家率は90%を超えており、非常に高い割合で資産としての自宅を保有しています。「住宅すごろく」と呼ばれるように、新婚時代の小さなアパートから賃貸マンションに引っ越し、さらに分譲マンションを購入、最後に郊外の一戸建てを手に入れ“アガリ”というスタイルが一般的でした。しかし、家族が多いときは広い一戸建ては楽しい我が家ですが、子どもが巣立ち、老夫婦だけになると何かと不便なことも多くなってきます。

一度「高齢期の終の棲家」の在り方を考えてみることも大切です。

高齢者世帯の住宅の建て方(単位:%)

高齢者世帯の住宅の建て方のグラフ

高齢期の一戸建て生活はリスクが高まる?

一戸建て住宅には庭がつきもの。若くて元気な時代には、庭の植栽や花壇を整備することは一つの楽しみでしたが、高齢期になるとこの庭のメンテナンスが大変になってきます。さらに自宅そのものも、家屋の老朽化や住んでいる人の心身の状況に応じて改修しなくてはいけませんし、万が一自然災害で損壊でもすると、費用だけでなく精神的にも負担が重くなります。 また、悪質な訪問販売や訪問営業も一戸建て住宅に暮らす高齢者が狙われがちです。防犯・防災両面で、高齢期の一戸建て住宅は対策が必要になってきます。

高齢者等のための設備がある住宅の割合(単位:%)

高齢者等のための設備がある住宅の割合のグラフ

欧米では高齢期の住み替えは珍しくない

欧米では、リタイア後に「高齢者が暮らしやすい場所」に移り住むことは珍しくありません。「寒い地域に住んでいたが、高齢期は暖かい場所で暮らしたい」ということで、ハワイやフロリダへの移住が人気です。

また、高齢者福祉先進国の北欧などでは、ライフスタイルに合わせて住み替えていく人が多くいます。通常18歳になれば子供は自宅を出ていきますので、その後夫婦で小さいアパートに、そして高齢期になれば高齢者住宅に、といった流れがあります。

いずれにしても、高齢者が暮らしやすいアパートやマンション、さらには一戸建てなどが整備されています。

デンマークの高齢者用テラスハウス(長屋住宅)。アパートのような高齢者集合住宅もあるが、見守り付きの戸建てタイプも多い。ひとり暮らしでも85~100㎡の広さ(高齢者住宅は65㎡以上がルール)※ 筆者撮影 デンマークの高齢者用テラスハウス(長屋住宅)

介護のことも考える

しかし、高齢期に考えておかなくてはいけないのが介護の問題です。利便性は高まっても、万が一心身の状況が虚弱化してきた場合の対策も併せて考えておくことが大切です。介護状態が重くない間は、近隣の介護サービスを利用しながら暮らし続けることも可能ですが、重度化した場合は、介護施設に再度住み替えることも考えておきたいもの。その際、住宅を処分した費用で手当できるかどうかも検討しておきたいポイント。不動産価値のある物件を選んでおけば、いざというときの支えになることは間違いありません。

便利な集合住宅へ

このような事情から、高齢者の都心回帰も見られます。駅に近いマンションや大型商業施設に隣接したマンションなどへの住み替えが人気です。マンションなどの集合住宅の場合、自分で対処しなくてはいけないメンテナンスはかなり少なくなり負担が減ります。また、庭の手入れなども不要です。さらに、集合住宅のほうが、防犯面や訪問販売を敬遠しやすいという点では、一戸建てよりメリットがあると言えるでしょう。

思い入れのある住み慣れた住まいを手放すのは寂しいものもありますが、今後ますます厳しくなる超高齢社会を乗り切るには、自ら「暮らしやすい環境」を選ぶことも重要です。

高齢者施設への住み替えについては、「高齢者施設に住み替えるという選択肢」で説明をいたします。

住み替えのタイミング

住み替えに際しては、今住んでいる自宅を売却して新たに住まいを購入するケースが多いと思われますが、このタイミングも重要です。利便性の高い都心部はますます需要が高まるため、物件価格も上昇の方向ですが、郊外や人口減少地域では下落に向かう可能性が高くなります。

できれば、今の自宅を高く売却し、新たな棲家はお得に購入したいもの。社会構造の変化や経済状況のタイミング次第では、思うように売却と購入ができないかもしれません。「いずれ都心部の交通の便の良いところに住み替えを」と考えている場合、早めに不動産の専門家に今後の市場の状況を確認し、相談したほうがいいでしょう。

住み替え検討の際のポイント~具体的な時期、場所、タイミングは考えていますか?~

住み替え検討のきっかけ 検討事項 考慮しておく点
  • 庭木の手入れが大変になってきた
  • 階段の上り下りの負担が大きい
  • 買い物に不便を感じるようになった
  • 交通の便が悪く外出が少なくなった
  • 子供など頼れる人が周辺にいない
  • 住み替えるならいつ頃か
  • どのエリアに住み替えたいか
  • 周辺に希望する施設や設備は何か
  • 現在の生活スタイルを維持できるか
  • 自宅の整理には体力が必要(体力のあるうちの住み替えが望ましい)
  • 不動産市況(適切な時期での売買)

各データ根拠:統計局家計調査(2013年)、住宅・土地統計調査〈速報集計〉(2013年)

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